JR山手線でいつものように渋谷から代々木へ向かう。慣れた経路だから、ボーっと車内のTV広告を見ている。飽きたから、なんとなくドアの床から外へ広がっている曲がり具合を見ている。今度は座席の横の板チョコのような滑らかな凹みを見ている。「ほんと、未来的な電車だよね・・・」そして、俺は気付いた。
 「あ、ここは未来だった。」と。
 つい忘れてしまう。家から駅へと続く街の風景があまりに自然だったから。そのあまりに自然な風景も、よく見れば、曲がった高速道路の下に、あまりに未来的なNISSAN FUGAやTOYOTA PRIUSが走っていて、パスモやスイカの付いた車椅子用の自動改札がまぎれている。
 新宿のKrispy Kreme DoughnutsからTakashimaya Times Squareへ向かう線路に広く架かった連絡橋(イーストデッキ)から見る、都庁などの高層ビル群や、圧迫感のあるJR東日本本社ビルなどの風景を見るたび思い起こされる。
 『ああ、ここは未来なんだ。大友克洋が「アキラ」で描いたあの「NEO東京」にいるんだ。あの、コタツと超高層ビルが混在し、東洋と西洋が混在し、ハイテクと伝統が混在する世界で最もエキゾチックな都市、「東京」にいるんだ。』と。
 社会も「NEO東京」そのものになってきた。バイアグラやコカインなどの薬に溢れ、世の中は100年に1度といわれる世界恐慌で、派遣切れに遭った人々が、炊き出しを求めて長蛇の列を作っている。
 世の中はとても複雑になってきた。Lehman Brothersの破綻から、ドバイではバブルが弾けて、世界一高いビルの建設工事が進められているそばで、他の高所得者向けのビルの建設は中止され、ゴーストタウンになっている。日本、中国、ヨーロッパ、アメリカでは寿司用の魚の奪い合いが起きている。中国では経済成長した分、それまで「チャイナプライス」と言われていた衣料品などでの極端に安い人件費がなくなりつつある。アメリカでは自動車のBIG3は破綻し、これからは電気自動車の時代だと言われている。インドでは中間層が豪華な居住区を構え、ヨーロッパと変わらない生活を送る一方で、塀のそばにはスラム街が広がっている。
 とても難しいこの未来。あらゆる問題は複雑すぎる。未来を想像しても、可能性が無限大なためにシュミレーションしきれない。生き抜くためにはバランスがとても大切だ。
 驚くのは人々のハイテクに対する抵抗のなさだ。薄型TVは「Back to the Future Part II」で取り上げられるほど、当時の人々には憧れだったのに、今、ヨドバシカメラで有機ELTVが展示されていても、みんな素通りしている。
 「そうか。もうここは未来だから、当たり前だから誰も気にしないのだ。」
 また気付かされてしまった。ここは未来だった。
 未だに潰れたように見えるLED信号。横の線がない横断歩道。まばゆいほど明るいLED看板。テレビ東京近くにある、崩れないかと心配なガラスで出来たビル。顔の形をした大型スクーター。当たり前の顔をしてハイテク全てを使いこなす人々。深夜の山手線は外人だらけ。外人タレントがTVに出まくり、銭湯にも外人。しかもアフリカ、インド、韓国、オランダ、ブラジル。ゲイやビアンにも、人々の抵抗感は薄れてきた。
 俺はそれらを見るたびに未来に気付かされ、驚かされ、高揚し、感動する。人類のるつぼ感。この終末感。退廃感。古いものと新しいものの存在感。未来を体験できた喜び。この時代に日本人で生まれて本当によかったと思う。

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